犯罪・刑事事件の解決事例
#遺産分割 . #相続登記・名義変更

遺言無効確認請求訴訟を提起され、遺言の無効を前提に遺産分割の合意をした事例。

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神山 公仁彦 弁護士が解決
所属事務所梅ヶ枝町法律事務所
所在地大阪府 大阪市北区

この事例の依頼主

50代 男性

相談前の状況

ご相談者Aさんの実父甲山乙男氏は、長男Aさんの家族と一緒に暮らしていましたが、自宅不動産の他にアパートを所有・管理し、また、数千万円の金融資産を保有していました。乙男氏には、Aさんの他に長女のB子さん(Aさんの妹)がおり、結婚をして家を出ていました。その後、乙男氏は、自宅近くの病院に長期入院をしましたが、その際、乙男氏は不動産や金融資産の管理をAさんに委ねました。その後、Aさんは、入院中の乙男氏に、後々のために乙男氏の財産のことについて一筆書いてほしいと頼み、乙男氏は手元に置いてあったスケジュール帳の余白に、「私(甲山乙男)の財産はすべてAにまかせる 平成●年●月●日 甲山乙男」と書き込み、Aさんに自宅から自分の実印を持ってこさせて、自分の署名の下に押印しました。そして、その約1年半後、乙男氏は入院先の病院で亡くなりました。その後、妹のB子さんから、乙男氏の遺産を明らかにしてほしいとの申し入れがあり、Aさんは、乙男氏の書いた一筆を示し、遺産を全て自分が取得する代わりに代償金として900万円を支払うとの提案をしましたが、B子さんは納得せず、Aさんの提案を拒絶しました。その後、Aさんは、乙男氏の書いた一筆について家庭裁判所に遺言書の検認請求(民法1004条)をしました。これに対し、B子さんからは、遺言無効確認請求訴訟が地方裁判所に提起され、併せて、裁判外で遺留分減殺請求の意思表示がなされました。このような状況のもとで、Aさんから遺言無効確認請求訴訟の訴訟代理について私が依頼を受けることになりました。

解決への流れ

Aさんとしては、乙男氏の書いた一筆が「相続させる」旨の遺言の趣旨とみられれば有利なわけですが、いろいろと文献に当たって調べましたが、「遺言書」の表題もなく、「私の財産はすべて●●にまかせる」との文言では、遺言の趣旨と捉えることは難しいと考えられました。もちろん、訴訟では、考え得るあらゆる主張を展開していきましたが、訴訟の途中で担当裁判官から和解の試みがなされ、その中で、乙男氏の一筆を遺言の趣旨と捉えることは難しいのではないかとの心証が開示されました。担当裁判官からこのような心証が開示されたこと、仮に、訴訟でこの一筆が「相続させる」旨の遺言として有効とされたとしても、後に遺留分減殺請求の争いが残ることから、Aさんと十分に相談し、B子さんとの間で、できるだけAさんに有利な形で遺産分割の合意をするというように方針を変更することとしました。裁判所において、何度か期日を重ねて遺産分割の条件についての話し合いを行い、最終的に遺産分割の合意をする内容で和解が成立しました。なお、法務局で相続を原因とする所有権移転登記の申請を行うための添付書類としては、地方裁判所の和解調書を家庭裁判所の遺産分割の調停調書と同等とみることはできないため、別にAさんとB子さんとの間で遺産分割協議書を作成し、それで登記手続きが行われました。

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神山 公仁彦 弁護士からのコメント

Aさんは、訴訟において、乙男氏の書いた一筆が「相続させる」旨の遺言の趣旨と捉えられなかったことに不満を抱かれていましたが、「私の財産はすべて●●にまかせる」との文言からは、生前の財産の管理を任せる趣旨か、あるいは、遺産分割の手続を中心となって行うよう委ねる趣旨とみられる可能性が高いと思われます。本件では、乙男氏に一筆を書いてもらってから乙男氏がお亡くなりになるまでには1年半以上の期間があり、その間に、もっと明確な内容の遺言書を書いてもらったり、あるいは、自書が困難であれば、公正証書遺言を作成することもできたと思われます。なお、自筆証書遺言は、厳格な要式が定められていて要式違反の遺言書は無効となるだけでなく、内容面において不明確な遺言書も無効となるリスクがありますので、自筆証書遺言を作成するときは、一度弁護士などの専門家に目を通してもらうのがよいでしょう。