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戦後、米国で養子に…父が語れなかった幼少期「子どものケアが不十分なのは今も」日本で映画製作
2019年09月04日 09時40分

現在製作中の映画『ぼくのこわれないコンパス』は、児童養護施設で育った青年トモヤの成長を、6年にわたり記録したドキュメンタリーだ。指揮を執るのは本作が初監督作品となるアメリカ人映像作家、マット・ミラー氏。本作に込める思いについて話を聞いた。(エッセイスト・紫原明子)

マットの父は第二次世界大戦後、日本人の母と、アメリカ人の父との間に、日本で生まれた。事情によりしばらく孤児院で暮らしていたが、のちに養子となりアメリカに渡った。

マットはそんな父のルーツを探るべく2006年に来日。現在にいたるまで、実に30以上もの児童養護施設に足を運んだ。その中で、一つの大きな問題を感じたのだという。

「現在、日本の児童養護施設で暮らす子どもたちの半数以上は、親からの虐待やネグレクトといった不適切養育を受けた経験があることがわかっています。にも関わらず、彼らが負った心の傷に対するケアが十分とは言えません。

心の傷は目に見えないので、子どもたちが身の危険のある日常から離れ、一時保護所や施設など安全な場所で暮らせるようになれば、一旦は安心に思えるかもしれません。しかし、トラウマやPTSDのような過去の心の傷は、結婚や離婚、大事な人の死など、その後の長い人生の中で起きる何らかの転機が引き金となって、思わぬ形で本人に影響することがあるのです。

ですから、できるだけ早いうちに、カウンセリングやセラピーを受けさせるなどして、きちんとケアされるべきです」

現在製作中の映画『ぼくのこわれないコンパス』は、児童養護施設で育った青年トモヤの成長を、6年にわたり記録したドキュメンタリーだ。指揮を執るのは本作が初監督作品となるアメリカ人映像作家、マット・ミラー氏。本作に込める思いについて話を聞いた。(エッセイスト・紫原明子)

マットの父は第二次世界大戦後、日本人の母と、アメリカ人の父との間に、日本で生まれた。事情によりしばらく孤児院で暮らしていたが、のちに養子となりアメリカに渡った。

マットはそんな父のルーツを探るべく2006年に来日。現在にいたるまで、実に30以上もの児童養護施設に足を運んだ。その中で、一つの大きな問題を感じたのだという。

「現在、日本の児童養護施設で暮らす子どもたちの半数以上は、親からの虐待やネグレクトといった不適切養育を受けた経験があることがわかっています。にも関わらず、彼らが負った心の傷に対するケアが十分とは言えません。

心の傷は目に見えないので、子どもたちが身の危険のある日常から離れ、一時保護所や施設など安全な場所で暮らせるようになれば、一旦は安心に思えるかもしれません。しかし、トラウマやPTSDのような過去の心の傷は、結婚や離婚、大事な人の死など、その後の長い人生の中で起きる何らかの転機が引き金となって、思わぬ形で本人に影響することがあるのです。

ですから、できるだけ早いうちに、カウンセリングやセラピーを受けさせるなどして、きちんとケアされるべきです」

●10歳の時、米国で養子となった父

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マットがこうした思いを持つようになった背景には、学生時代に味わった自身のつらい体験がある。

「私が16歳の頃、母が心臓発作で亡くなりました。それをきっかけに、私の父が固く心を閉ざしてしまったのです。日々塞ぎ込むばかりで、息子たちの世話をやくことも、経営していた会社を気にかけることもしなくなりました。その結果、父の会社は倒産し、私達一家は収入も、住む家も、すべてを失いました」

マットの父が養子として日本からアメリカに渡ったのは、10歳の頃だったという。ただでさえ多感な時期に、見知った大人が誰一人いない、それどころか、言葉さえ通じない場所での生活を突如として余儀なくされる。そんな体験が、父の心に大きな影響を及ぼしたことは言うまでもない。

生前のマットの母も、寡黙で、自分の気持ちを一切話そうとしない父に、カウンセリングを受けてはどうかと度々勧めていたという。ところが父は、その必要はないと、決して首を縦に振らなかった。

「それでも母の死後、父は本当に長い時間をかけて、私に少しずつ、自身のつらい経験を話してくれました」

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父は日本で暮らしていた頃、容姿が日本人らしくないということを理由に、学校でいじめを受けていたという。また、日本人の継父からは、日々、暴力を受けてもいた。

家から追い出され、日が暮れるまで帰ってくるなと命じられ、ただ家の周りを延々と歩く、そんな日々が続いた。現在70歳の父の記憶の中にある、日本の家族の最後の姿は、自分を殴る継父と、自分を施設に預けた日の母親の姿だ。

「父が子どもの頃に受けた心の傷は、当時から何十年と経った今なお、癒えていないのです。父がもし、もっと早い段階でカウンセリングやセラピーなど、適切なケアを受け、きちんと心の傷が癒やされていたら。たとえ境遇は同じでも、その後の父の人生は、まったく違うものになっていたのではないかと思います。

映画を通じて、未だ適切な心のケアが受けられていない子どもたちが少なくない現実を、多くの人に知って欲しいと思っています」

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またマットは本作を、大人だけでなく、今現在施設で暮らす子ども自身にもぜひ観てもらいたいと語る。

「施設で暮らす子どもたちの多くは、自分の抱える心の傷に無自覚です。だからこそ、彼らがこの映画を見て、トラウマやPTSDと呼ばれる症状があるということを、彼ら自身に知って欲しいと思うのです。そうすることで、ケアを必要とする子どもたち自身が、自分から大人に助けを求められるかもしれません」

作中では、子どもの心の傷を過剰に刺激することのないよう、震災や虐待などのシーンなどでは一部にアニメーションを使う予定もあるという。

「私はこの映画を通して誰かを責めるつもりはありません。悪者にするつもりもありません。そうではなく、実在するトモヤという一人の青年の成長を見て、傷ついた子どもたちに何が必要なのか、自分になにができるのか、そういったことを、一人ひとりに考えてほしいと思います」

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●ドキュメンタリー映画「ぼくのこわれないコンパス」

日頃明るみに出ることのない児童養護施設での暮らしや、施設の子どもたちが直面するさまざまな問題を描くドキュメンタリー「ぼくのこわれないコンパス」は現在、クラウドファンディングで製作資金の寄付を募っている。

■ クラウドファンディングURL:https://www.kickstarter.com/projects/thethingswecarry/the-invincible-compass

【筆者】 紫原明子(エッセイスト) 1982年、福岡県生まれ。男女2人の子を持つシングルマザー。 個人ブログ「手の中で膨らむ」が話題となり執筆活動を本格化。BLOGOS、クロワッサンweb、AMなどにて寄稿、連載。その他「ウーマンエキサイト」にて「WEラブ赤ちゃん」プロジェクト発案など多彩な活動を行っている。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)がある。

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